『Sorry,and thank you.』     CAST:Hizikata,Kagura.


















 「もー良いか?」
「……」
「あのな、俺も忙しいんだって。一応。」
「……」
「…なあ。せめて膝からどいてくれ。俺の膝は椅子じゃないのよ、そうやって腰掛ける場所じゃねーの。胸も別に背もたれじゃねーしな?だからどけって、な?」
「……それが泣きじゃくる少女に向ける言葉かヨ」
「小一時間座り続けられたらどんな優しい人間だって少しは文句も言うわ」
「……ふんだ。」
ずず・と鼻をすする。ほんの少し、額の右側が赤みを帯びていた。
「私、悪くないもんヨ」
「あー何度も聞いた。なんだっけ、今度はケーキと飴食べたんだっけ?つくづくお前らの喧嘩ってくだんねーよなぁ」
「くだらないとは何事カ!このおでこ見るネ、おでこ!!思いっきり引っぱたかれて、まだじんじんするアルヨ!!」
「コブにもなってねェじゃねーかよ。ツッコミってのはな、ものの弾みって奴が付き物なんだって。銀髪はちょっと厳しくツッコミ入れただけのつもりなんだろーよ」
「何がツッコミかヨ、ろくに食い扶持稼がない駄目雇い主のくせに」
「お前を満足させる食い扶持ってどんくらいあれば足りるんだ?」
 応対しながら、ふうと息をつく。もう日も暮れてきた。湿った空気のよどむ神社の階段は、それでなくても薄気味悪い。やたら明るく元気な神楽が一緒だからまだ良いが、それでもとっとと繁華街へ出たいのは変わらない。
 ざざざ・と竹林が揺れて葉の擦れる音が響いた。藍色の空を、黒い影が遮る。少なからず背筋が寒くなった。
 決めた。そうだ、もうこいつなんざ関係無ェ。今すぐ帰ろう!
 きゅっと唇を噛んでそんな決意を固め、そして膝上で未だにぶつぶつ言っていた神楽をひょいと腰から抱え上げた。
「うわぁっ」
「帰るぞチャイナ」
「帰るって、何処に!私帰らない、万事屋帰らないヨ!!」
「だったら俺らんとこ来りゃ良いだろう」
「え」
小脇に抱えられたまま、酷く驚いたような声を出してきょとんと土方を見上げる。冷めた目でそれを見返す。
「嫌なんだろ?万事屋が。だったら来れば良い、どうせ屯所の連中は誰も嫌がりゃしねぇよ」
「……でも」
「どうすんだ?」
「……」
「…あーもー、はっきりしろ!」
ぐいと一気に持ち上げ、目線を合わせる。睨みつける。
「どっちだ!?万事屋が好きか、嫌いか!戻りたいか、戻りたくないかだ!!決めんのはてめェだぞ!」
 少し、沈黙が降りる。
 神楽の顔が、不意にまたくしゃりと歪んだ。
「……帰りたい、ヨ」
「…よし。よく言った」
ふんと鼻から息を吐き、それから器用に神楽を背中へ回しておぶってやる。とんとんとゆっくり一段ずつ階段を下り始めた。











 「……」
「……」
神楽は、土方の首へまわした腕に顔を埋めて、じっと黙っている。土方も黙ってただ足を進めていた。微かに街の雑踏が聞こえ始める。冷たい風がすうっと通る。
「…多串クン」
唐突に、神楽が囁くように呼んだ。一瞬ふわりと吐息が首筋を撫ぜたので思わず身をすくめてしまったが、すぐに気を取り直してなんだと問い返す。
「ありがとネ」
「……」
「でも、ごめんネ」
「…別に謝られる筋合いは無ェよ。」
「うん、けど、ごめんヨ」
ほんの少し神楽は微笑ったようだった。そして、きゅっとまた腕に力を込めてくっ付いた。










































 「あ゛っ!」
もう少しで人通りの多い大通りに着く。そんな時、唐突に酷く驚いたような声が聞こえて、それがどうもこちらに向けられているような気がして、神楽がひょいと頭を上げ土方もきょとんとそちらを見やる。
「……あ」
「銀ちゃん!」
「何してんだ神楽、んな奴にくっ付いて」
滅多に無い組み合わせで、よほど不審に思ったらしい。思いっきり訝しげに眉根を寄せてじいっとこちらを見つめてくる。少しぐっと圧されたが、すぐに睨み返した。腕を少しくいっと動かし、神楽を押す。はっとしたように目を丸くして、それからオウと小さく頷きぴょんと飛び降りた。
 とととっと駆け寄る。
「…ゴメンナサイ」
「……」
「まだ怒ってるカ?」
「…お前、そんなにせせこましい人間に見える?俺。」
「見えるヨ」
「何ィ!?」
「嘘ネ」
あっさり言って、くすりと笑う。
 そうして、ごく自然にすぐ傍へ寄って、今度は彼の白い背に飛び乗った。わたっ・たっ・ちょっお前重いッ重いよオイ!などとわめく銀時に、五月蝿いヨ・と言い捨ててぽこんと頭を引っぱたく。仕返し・とでもいうように。
 そしてよじよじと肩までよじ登り、肩車の格好になった。
「ばいばい、多串クン」
「んじゃーね。なんか世話になったみたいで、悪いね、うちのバカ娘が」
「バカはお前ヨ!」
「痛ェっ!」
「…漫才はよそでやれ。じゃあな」
冷静に返すと、オウ・とまた返事。そして二人はくるりと方向転換し、歩き始めた。
 その赤い小さな背中と、少しのぞく白い背と髪を見つめながら、土方はなんとはなしにふんとまた鼻で息を吐いた。若干乱暴に煙草を取り出し、さっさと火を点ける。
「…何考えてんのかな、俺は」
どこか嘲笑うようにして呟いて、くるりと踵を返した。一歩踏み出す。
 と、背後であっという少し高い声がした。それからおーいと大声で呼ぶ声がする。
「……なんだ?」
怪訝に思いながら振り返ると、神楽がどんどんと銀時の腹を蹴って急かしながらまたこちらに駆け寄ってきていた。すぐに近くまで来る。
「…何やってんのお前ら」
「ホントだよ!おい神楽っ、てめえなんで今更引き返すんだ!ってかてめェの足で歩けェェェ!」
「嫌アル。それより銀ちゃん、ちょっと屈んで。」
「あ?」
「屈むヨ!こう、上半身折るよーに…そうそう」
「……何が始まるんだ?」
「おーい神楽ちょっと、腰痛いんですけど。ねえ降りてくれない、これ?」
「もうちょっと下ぁー」
「…ハイハイ。」
銀時は諦めたようにため息をついた。膝に両手をついて、思いっきり屈んでやる。神楽はほとんど背中にちょんと腰を下ろす格好となった。
 「まだ、俺に何か用か?」
煙草を口から外し、ちょうど目の前にある神楽の蒼い瞳を見つめ返す。その瞳が、にやりと悪戯っぽく笑った。
「今日のお礼。」
「は?」
何――…。言う間もなく、温かくて柔らかいものがふわりと頬を掠めた。
 一瞬状況が読めなくて、目をぎりぎりいっぱいまで見開いたまま固まる。神楽がまた笑って、ちろりと赤く小さな舌をのぞかせた。
「またヨロシク」
「……」
「何?何やったのお前?お礼ってなんだ、そんな迷惑かけたのかお前!?」
屈んでいた銀時には頭上の出来事は少しも見えなかった。
「別に大したこと無いヨ。ほら帰るアル、とっとと行くヨロシ!!」
「何お前っ可愛くねェェ!!」
 再び小漫才を繰り返しながら、二つで一つの影はまた遠ざかっていく。

 「……冗談じゃ、ねーよ。」
今更のように神楽の言葉に言葉を呟き返し、また煙草を口に咥えた。少し笑う。


 何故か楽しいような、ふっと晴れた気分だった。





















 最後にまた神楽が頭だけ振り返り、ばいばい・と片手を大きく振った。

 土方もまた片手を軽く上げて返し、それから後ろを向いて、今度こそちゃんと歩き始めた。



















 その口元にはまだ、微かな笑み。














                                     -----------End.
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 リクエストに沿ってます。「うっかり銀さんにヤキモチ土方さん」。…ヤキモチがほんの一部分に終わっています(おい!)
 二人の背中を見送る最初の土方さんはうっかりうっすらヤキモチなんですよ…!でもそのあとほっぺにチュで少し機嫌が直りましたという(どんな単純バカップルだよ


 なんだかんだで土神にはべたべたいちゃついて欲しいです(笑) 二人とも天然で…周りから見るとすごいベタついてるのに、本人達はそんな自覚無いの(夢見んなよ)